村田検察官ご指摘の検証資料について、いくつか事実誤認が見受けられるので、
反論を行います。
A.1日目、シラクスから村への足取りについて
? 1.深夜0時出発、午前10時到着について
??? 村田検察官の検証資料に記載の通り、当地の夜明けは午前4時頃であります。
??? 農村の朝が早いのを勘案すれば、村への到着は、(すでに太陽が高く昇って居るであろう)午前8時頃と考えられます。
? 2.速度について
??? 太宰氏の文章には、「一睡もせず十里の路を急ぎに急いで」とのみ記述されています。
??? 走ったとは記述されていません。
??? 「花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やら」を担いで早足で40kmを8時間で到達したのであれば、
??? "急ぎに急いで"に反しないと考えます。
B.3日目、村からシラクスへの足取りについて
? 1.村から川越えまで
??? 「薄明のころ」と記述されているので、目覚めたのは午前4時で反論有りません。
??? 川岸に着いた時点で「太陽も既に真昼時」との記述があるので、12時で反論有りません。
??? なお、この行程の途中で「そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気(のんき)さを取り返し」と
??? いう記述が有るので、メロスは自覚的に"歩いて"おります。
??? 川越えの際、「押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。」という記述の後に、
??? 「陽は既に西に傾きかけている。」という記述があります。
??? これに関しては、明確に西に傾きかけていると認識するのは一般的には14時ごろであると反論します。
??? 残り20km地点というご指摘に異論はありません
? 2.峠越えについて
??? そして、ここに最大の事実誤認が有ると指摘させていただきます。
??? シラクス(現シラクーサ)の有るシチリア島で山といえば、"標高3360mのエトナ山"であります。
??? 地図を確認しましたところ、その峠道は登り5km、下り5kmに渡る長大なものです。
??? しかも、雨でぬかるんだ峠道。時速2kmで、登り2時間半かかります。
??? この時点で、推定時刻は16時半、残り15kmであります。
??? 山賊との戦闘は30分で異論はありません
??? この時点で、推定時刻は17時であります。
??? 下りは5kmです。ぬかるんだ峠道という事を勘案すれば、時速5kmで、1時間くらいでしょう。
??? この時点で、推定時刻は18時、残り10kmであります。
? 3.ラストスパート
??? 村田検察官の検証資料には、倒れていたのは1時間とありますが、
??? 意識を失っていたわけではなくて、色々余計なことを考えていただけなので30分と推定します。
??? この時点で、推定時刻は18時半、残り10kmであります。
??? 日没は19時。
??? つまり、メロスは、最後の10kmを30分で走りきったのです。
??? 時速20km。正にラストスパートにふさわしい走りでは無いでしょうか?
??? 路行く人を跳ねとばしたのも、宴席のまっただ中を駈け抜けたのも、犬を蹴とばしたのも、
??? そのスピードで走ったのであれば仕方の無い所でしょう。
??? (その後、きちんと謝罪と補償を行ったと聞いております)
以上、勘案するに、メロスは、最終的に走らざるを得なかったと結論します。
メロスは、(最終的には)走ったのです。
走れメロスというのは、(約束が有るにも関わらず)なかなか走ろうとしないメロスに対しての、
"(いい加減)走れメロス(怒)"という太宰氏からの叱咤であると考えるのが妥当であります。
村田検察官のおかげで、メロスの弱さと太宰氏の文章の魅力に新しい光が投げかけられた事に感謝いたします。
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